なぜ人は匿名だと攻撃的になるか?

2018年06月26日(火)一般教養 

ネット上での誹謗・中傷、攻撃、脅迫が一つの社会問題になっています。なぜネット上で人は攻撃的になるのでしょうか?

 

なぜ人はネット上で攻撃的になるか?|ルシディチュード-灯台教養学部

 

一つには、注目を浴びるため。過激な発言は人の注意をひきます。それにより自我が満たされることもありますが、それ以上にアフィリエイトはじめ炎上商法が一つの手段になっているためと言えるでしょう。

今日は、もう一つの要素である”匿名性”について考えていきます。匿名性だからこそ発達してきたともいわれるインターネットの世界。

本当に匿名性が人々の攻撃性を増すのでしょか?

 

ルシディチュード―灯台教養学部匿名性の実験

匿名の状態に置かれた人がどのような反応を示すのか、さまざまな科学的実験がこれまでされてきました。現段階の結論としては、総じて匿名性は攻撃性を高める、というものです。

 

社会心理学者Philip Zimbardo (1970, 2002)は次のような実験をしました。

ニューヨーク大学の女子学生に、一部の学生はそのまま、一部の学生はみんな同じKKK*のメンバーのような白いコートとフードをかぶせました。学生たちに他者に電気ショックを与えるようにという指示を出すと、結果は扮装していなく大きなネームタグを胸につけた生徒よりも、扮装した生徒の方が約2倍長く電気ショックを与えたということです。ライトを暗くしたり、サングラスをつけたりさせただけで、人びとに匿名性の感覚が生まれ、喜んでだましたり利己的な態度をとるようになりました。

*KKK(クー・クラックス・クラン)・・・アメリカの白人至上主義団体。白装束で頭部全体を覆う三角白頭巾が彼らの制服で、主義に従い人種差別や性差別の暴力的な事件やパフォーマンスを繰り返した。19世紀に誕生し、20世紀に最盛期を迎え、現在は勢力は弱まっているものの存続している。

 

自分の個人的なアイデンティティが明確にならない状態だと攻撃性や無責任性が増すというのは、大人だけでなく子どもたちにも見られます。

ハローウィンで、シアトルの1352人の子どもたちのトリック・オア・トリートを観察した科学者がいいます。 子どもが町中を分散して27の家の1軒を訪ねるとき、一人であろうがグループであろうが、実験者は彼らを温かく迎え、「アメを1つとってね」と言い、キャンディーをそのまま子どもたちに渡してしばらく彼らだけにして放っておくのです。この状態を隠れている観察者が記録したところ、グループで家を訪ねた子どもたちは、1人きりで家を訪ねた子どもたちより、2倍の確率で余計にキャンディーをとりました。また、名前と住所を尋ねられた子どもは、匿名にされたままの子どもに比べ、違反が半分以下となりました。

違反率は、状況によって劇的に異なります。グループへ没入し、匿名になることで没個人化がおこると、ほとんどの子どもは余分にキャンディーをとったということです。

キャンディをたくさんとるくらい大したことはないと思いますが、誰かと一緒にいるかそうでないか、自分のアイデンティティが明確になっているかそうでないかで子どものうちから態度が変わるというのは非常に興味深いものがあります。

 

しかし、匿名性が攻撃性をやわらげたという実験もあります。

Robert Johnson, Lesile Downing (1979)は、他者が受けるべき電気ショックがどれだけのものにするかを決める前に、ジョージア大学の女子学生たちに看護士の制服を着せました。一部の学生には名前がはっきり提示されるネームタグをつけます。この結果、名前がはっきり提示されていることで個人的アイデンティティーが強調されている状態におかれた生徒よりも、同じ制服を着て身体的匿名性が高まっているであろう看護師の服装をした生徒たちのほうが、ショックを与える際に攻撃性が減少したのです。看護師の制服を着用したことで、病人の看病をするやさしい看護師といった多くの人が抱いている通念ともいえる看護師という社会的アイデンティティーが攻撃性を弱めたと考えられています。

 

ただ、やはり匿名性、没個人化が攻撃性を増すことの方が一般的だといえます。

人類学の研究からも、没個人化の兵士の文化は敵に残忍な仕打ちをする文化であったことが明らかになっています。

Andrew Silke (2003)の研究では、北アイルランドで起きた暴力的攻撃500のうち206は、マスクやフードをかぶり、他の顔の変装をした攻撃者による実行されたそうです。変装していない攻撃者に比べ、匿名性の高い攻撃者はより深刻な傷を負わせ、より多くの人びとを攻撃し、より破壊行為にコミットした、という結論付けになっています。

ナチスドイツがユダヤ人を虐殺する際、最初は銃で一人ずつ実行していましたが、耐えられなくなり士気が下がるドイツ兵の様子を見て、ヒムラーがガス室を考案したといわれています。虐殺されるユダヤ人にとっても、虐殺するドイツ兵にとっても、匿名性は格段に高まり、状態は平常化していったと分析している学者もいます。

 

Tom Postmes とRussell Spears (1998)の没個性化の60の実験の分析によると、匿名になることは自覚がよりなくなり、グループへの意識を高め、状況において提出されるきっかけ(KKKのようにネガティブなものにせよ、看護婦のようにポジティブにせよ)により反応しやすくなると結論しています。

 

これらの実験は、ある一定の設定された環境下で見られる一部の人々の反応から結論を導いていますが、わたしたち一般にいえる反応ではないでしょうか。

一人ひとりが匿名性が攻撃性を増すという一般的傾向を学び、自覚することがとても大切です。いじめやネット上での攻撃といった殺伐とした社会的現象の解決にもつながる一歩となるでしょう。そして同時に、一人ひとりがどんな時も周りに流されるだけでなく、自分の頭で考える力を育てていくことが重要です。

 



読後チェック

①匿名性は一般的にどのような状態を導きますか?

②匿名性の実験結果から、いじめやネット上での攻撃に対する対応策を考えてください。



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